1. 概要

最近、2020年のオリオン座ベテルギウスの減光に関し「ひまわり8号の画像」データを基に定量的に評価された論文が発表され話題になりました。原典はNatureに掲載(リンク先)され下記のとおりです。

Letter Published: 30 May 2022 The Great Dimming of Betelgeuse seen by the Himawari-8 meteorological satellite
Daisuke Taniguchi, Kazuya Yamazaki & Shinsuke Uno

ひまわり8号の画像に地球の背後にわずかな領域に月、惑星が写る時があり、その面白さを特集、参考記事「ひまわり8号による地球と共に写った天体」にまとめています。しかし、恒星の画像に注目したことはありません。

上記論文は変光星の変化をひまわり8号のデータから新たに定量的に導き出されたことに驚かされると共に興味を持ちました。

そこで、ベテルギウスの減光現象の原因、ひまわり8号の数値処理結果とは離れて、単純に見た目、減光の様子がひまわり8号の画像で見たくなりました。見た目の印象ですから可視光画像(普通の写真)で楽しめます。なお、ひまわり8号の画像ではなくて望遠鏡による見た目の光度の比較画像はAstoArtsのギャラリーで「ベテルギウス」と検索すると見られます。

以上の背景から、ひまわり8号による2019年11月~2020年3月に写っていたベテルギウスの光点を取出し比較を試みました。画像はNICT:情報通信研究機構によります。その画像の比較結果から明確に結論付けられませんが2020年2月が他の月の光よりも相対的に少し暗目になっている印象を持ちました。【追記:2022/06/15。 続けてNo.1039にRGB分割処理してそれぞれ単色による強度差を整理しています。個人的にはひまわり8号の画像で見た目でも相対的な明るさの変化を拾っていることが直感的に理解できて面白い?】

2. ひまわり8号によるベテルギウス画像の例

画像1にひまわり8号にベテルギウスが写っている例を示します(原画は地球以外、恒星は暗く見えません)。

画像1 オリオン座ベテルギウス変光星 2020/03/28 05:30が写っているひまわり8号の画像(恒星は暗く見えません)

画像1の四角枠をさらに拡大すると画像2のようになります。それでも暗く恒星は見えませんので強烈に明度を上げて調整しますと画像3のように光る点が浮かび上がります。さらに正方形枠内を拡大すると画像4のように光る点が見える様になります、ベテルギウスです。二つの点のように見えますがピクセル単位に拡大すると赤、緑、青の光りがずれてスキャンされていることがわかります。本来は一つの光る画像です。下部に見えている多数の点々は強烈な画像処理を行ったために明るく現れたものです。元々の画像は11,000×11,000サイズでベテルギウスの画像はあまりに小さいのですが赤、緑、青がずれて写っていることがわかります。画像を縮小、編集していますので色が目立たなくなってしまいました。

画像2 オリオン座ベテルギウス変光星 2020/03/28 05:30が写っているひまわり8号の画像の拡大(画像1の四角枠拡大:まだ見えません)

画像3 オリオン座ベテルギウス変光星 2020/03/28 05:30が写っているひまわり8号の画像の拡大(画像2を強く明度調整:小さい点が恒星)

画像4 画像3をさらに拡大 中央の光点がベテルギウス (画像処理によっても二つの点のように見えてしまうのが特徴です)

以上が一枚の画像の例ですが、これを2019年11月から2020年3月の5か月間にベテルギウスが写っている画像をピックアップしました。但し、ここでは地球の右側に現れるベテルギウスのみを対象にしています。その50分前には地球の左側にも見えるタイミングがありますが今回は対象にしませんでした。ピックアップした画像について表1に整理しました。全部で33枚ですが見逃している可能性はあります。

表1 ベテルギウスが写っている画像の対象日時JST

3. ベテルギウスの画像(光点)の大きさ比較

表1の画像全てを月毎にSiriusComp64で比較明処理して並べたのが画像5です。これらの画像は全て同一条件で処理しています。このため画像処理の差による影響はないと考えられます。上下に光点のずれがありますが、恒星位置の変化と言うよりはひまわり8号に起因している可能性も考えられますが情報がありませんので原因は良くわかりません。【追記:2022/06/15。 参考用:「ほんのり光房」久保庭様から以下の情報をいただいています。「ひまわりは東西はもちろん南北にも5分角程度は動くので、ベテルギウスの位置がゆっくり波打つのはそのせいかと思います。”下図参照。地球から見るとバネのような軌道になります。→ http://kuusou.asablo.jp/blog/2022/04/05/9478837″ ※ひまわり原画では概算で1分角(=1/60度角)あたり10ピクセル。※ひまわりが南北にズレる量だけ、地球に対する遠方の恒星もズレます。
※地上に設定された複数のランドマークを検出することにより、地球画像のズレや歪みは除去されています。でも宇宙部分についての補正は行ってないと思われます。」】

画像5に関するベテルギウスの全部を原画に遡って一枚の比較明処理して上下のばらつきを確認したところ、最大-最小幅は30ピクセル程でした。

画像5 ひまわり8号によるベテルギウスの画像比較

これらの画像から2020年2月の画像が全体から見て暗くなっているようにも見えるのですがいかがでしょうか。個人的な意識、思い込みが強いためかもしれません。その推察は上記論文から1月、2月に減光していた結果と対応しているようにも思えます。最適なスペクトルの画像を選択すればもっと明確になるのかもしれません。AstroArtsのギャラリーの写真を参考にすると明るさの変化はこの程度でもおかしくないと思えます。

4. まとめ

一つの好奇心から変光星の様子を見た目で捉えられないかひまわり8号の画像で楽しみました。明確な明るさの変化とは言えないものの暗いようには見える画像もありました。ひまわり8号の画像では変光星でなく一定の明るい恒星の場合はいつ見ても同じように見えるはずなのでその結果と比較すると、もう少し納得できるような現象が結論付けられるのかも知れません。