土星の環が消失する写真が撮りたいものだと調べましたがもう少し先の2025年でした。来年、再来年になると話題性が高まると予想されますが現時点では少し先走り感の印象も。一方、逆に約15年毎の現象なのにすぐにやってくる年ではないかラッキーとも感じます。
No.1057ではStellaNavigator11でシミュレーション画像を見ながら確かめました。この記事に関連して「ほんのり光房」の久保庭敦男様およびNo.1057のコメント欄にあるサイエンス@千葉さんから追加情報、コメント等をいただきました。
特に「ほんのり光房」”土星が衝を迎えました“2022/08/15投稿では土星消失について詳しく軌道計算に基づく結果がまとめられています。環の消失時を導き出す計算過程の説明もあり(公開情報では「何、なぜ、いつ」に関する結果の紹介が多いのに対して)、画像シミュレータ以外に手がない私にとっては納得感が得られるものになりました。
ここでは軌道計算を利用した演習を兼ねて改めて記事として整理しました。最初に2022年~2025年の地球(地心)および太陽(日心)から土星を見た時の中央緯度=土星の環の傾きを作図すると共にStellariumのシミュレーション画像*を取得しました。
図1に2025年までの土星中心緯度の変化を示します。NASA JPL Horizons Systemのページを使用しました。このため上記ほんのり光房様掲載の図と重複します(私にとっては真似ることが大事な演習、でもブラックボックス)。
図1 土星の中心緯度の変化(青は地球から見た場合、赤は太陽から見た場合。緯度ゼロ点は環が水平、傾斜ゼロを示す)
青丸が地球から見て土星の環が傾斜ゼロになり消失するタイミングです。赤丸は太陽から見て同様にゼロになる時です。日本の空では標準時でそれぞれ2025/03/24と2025/05/07です。
前者は土星の環が薄いので真横になれば見えなくなることが類推できるのですが、後者は-2°(上を北とすると、下の南側から環をみることになります)も環が傾いているのですから暗くなることは想像できますが氷の粒子の乱反射で見えないの?と淡い期待を持ってしまいました。
前回(No.1057)の時にStellaNavigator11によるサーベイしていた時に、現在から2025年に向けて連続で土星の環が傾き消失するのでなく、途中で環の傾きが元に戻る画像に気が付いていたのですが、この図から緯度が波をうち、上に凸、下に凹の変曲点を繰り返しながら環の傾斜が変化することがわかります。この変曲点に注目してこの時点の土星画像をStellariumで作画しました。これらの画像を図1とあわせて図2に示します。計算はUTで0時から一日間隔で計算した一覧表から拾った数値ですけれど、画像はJSTで同じ日時ですので9時間ほどずれています。
図2 土星の環の見た目の変化2022年~2025年(土星中心緯度の+は北側から見た環、-は南側から見た環。同じように見えてしまいますけれど注意要) 画像はStellariumによります
変曲点から次の変曲点までの間の環の傾きはその二点間の画像の範囲内になりますが、2024年11月から2025年12月まではそうならない、画像の違いに注意しなければいけません。2025年以前は土星の北側(画像の上)から見た環の画像であり、青丸印の傾斜ゼロを過ぎた後は南側(画像の下)からの画像になり、言い換えると環の表裏を見ることになります。
土星の環が消失する2025年に限った4枚の画像を図3に示します。この年はなんと土星らしくない画像ばかりが得られ、斑点があれば木星の兄弟みたい。前半が北面の薄い環、後半が南面の薄い環、表裏の画像が実現します。
図3 2025年に限定した土星のシミュレーション画像 画像はStellariumによります
①は理想的な幾何学的な関係から土星の環が消失する現象の時ですが空では見かけ上、土星自体が太陽に近く観察はできないと予想されます。宇宙空間にある大気の無い状態の望遠鏡等ではどうなるのでしょう。②は環に太陽光は平行ですので地球からは見えないと言われていますが前述したとおり暗くなるだけだと見えるのではと思ってしまいます。日本では早朝の短時間になりますがどうなるか?。土星本体に写る影も気になります。③は環の傾斜が付いてきた変化と捉えるだけではなく環の裏側(南面)を見ることに注意します。④は今回土星の消失年のメーンイベントかも。土星本体に黒い横線が見える事になります。観測も撮影も宵の時間帯で最も相応しくその時を思うとわくわくします。
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*; Stellariumは写真で撮ったような画像が表示され、かつ、土星本体に衛星や環の影も表現されます。環について衝効果(上記ほんのり光房の記事で触れています)のような環の平面の明るさが表現されているか何回か見比べましたが私の目では判別できませんでした。一年前に木星の衛星同士の食に関して特集、参考記事に”初めての木星のガリレオ衛星相互食の撮影“でもStellariumを利用しましたがその時も木星の衛星同士の影がよぎる表現を知り、感心してしまいました。
謝辞
前文にも記述しましたが、久保庭様には個人的に教えていただいた事に感謝致します。太陽、地球、土星の軌道の関係から導き出される環の状態ばかりではなく、さらに撮影のタイミングとして観測できる時間帯、高度までを重ね合わせると、2025年の土星の観測は楽しそう。月面の秤動と同様に土星の環も定量的に意識するととても面白く、今からでも土星を時々撮影し続けると変化がわかり楽しさが増しそう。