Rev.1 タイトル名を「No.719 パール富士の写真合成・多重露光の議論に関するシミュレーションによる確認」から変えました。2020/06/19

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フォトコンテストのパール富士の写真について合成等(ここでは合成も多重露光も同じ「合成」と表現します)ではないかとの議論を目にしました。その対象の写真は山梨県忍野村の「富士忍野グランプリフォトコンテスト」で最優秀賞を取られた作品です。その写真は下記リンク先のとおりです。
http://www.vill.oshino.yamanashi.jp/
http://www.vill.oshino.yamanashi.jp/photocon.html
http://www.vill.oshino.yamanashi.jp/gallery/
大きい引き伸ばし写真は三番目のリンク「写真ギャラリー」の中で見られます。

議論の内容は、(1) 忍野村からその日にパール富士としては実現しないはず、(2) 富士山の山肌の影から太陽の方向と月の位置、見え方が対応していない、(3) 月の色もおかしい、雲の手前に月が見えるのもおかしい、だからこの写真は合成したとの指摘、これに対して撮影者は多重露光の機能で撮影したことに違いはありませんが、月は富士山の近くにありましたとのコメント、また忍野村の担当者もそれは事前に承知していたとのことです。応募の合成写真は不可だが、当該写真はカメラ内の機能の利用なので問題ではないとの解釈。

これらの経緯は朝日新聞の記事がわかりやすいのでリンクしておきます。
https://www.asahi.com/articles/ASN6J6X83N6JUZOB00B.html
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200603004365.html
https://www.asahi.com/articles/ASN63778JN61UZOB00T.html

合成、多重露光の写真が相応しいかどうかに絡んで議論が行われ、意見も様々あるようです。ここではその写真が上記(1)及び(2)の指摘の観点、それに撮影者のコメントについて当日の場面を再現、シミュレーションして確認してみることにしました。

条件は撮影日時が2019/11/15 06:25、撮影場所は忍野中学校近く、の2点です。

この時刻と場所のみの情報ですが、ソフトカシミール3Dとステラナビゲータを使用してシミュレートしてみました。カシミール3Dについては本サイト内でも数多く利用していますので「カシミール」と検索すれば、該当ページが見られます。山の特定、ダイヤモンド富士の予想、ISSから見た列島等に利用していたと思います。

まず、撮影場所から撮影した同時刻の風景はカシミール3Dのシミュレーションにより図1のとおりとなりました。なお、カシミール3Dの設定条件のうち、対地高度を高くしないと基盤地図情報(標高)データの影響なのか?撮影近くの地形をキレイに表現できませんでしたので高くしています。このため仰角が少し異なるかもしれません。また、月が画像内に現れるように広角レンズとしました。画角は120°程度で、概略になってしまいますが富士山が南西、月がほぼ西、画像の左端は南、右端が西北西という感じです。太陽はこの画像の左端から横幅半分程度のさらに左に位置すると考えられます。

図1 カシミールによる忍野村から見た富士山のシミュレーション画像 2019/11/15 06:25

右上に月齢18(月齢17.7)が見えていますが、富士山の上にはありません。月の方位は富士山から45°程度右に位置しています。参考に前後+-10分の画像も図2及び図3に示します。後述するステラナビゲータによる星図からちょうど06:25の画像は朝日が射し始めた時刻に相当していて、その10分前の画像は暗くなっています(写真の写り具合として現実はどうだったか?少し薄明りで山腹が見えていたかもしれません)。日の出は06:19です。カシミール3Dでは忍野中学校の場所から富士山山頂(少し月を表示するために左に少しずらしましたが)をねらい、時刻は図のとおりです。

図2 カシミールによる忍野村から見た富士山のシミュレーション画像 2019/11/15 06:15

図3 カシミールによる忍野村から見た富士山のシミュレーション画像 2019/11/15 06:35

ついで135mmレンズと200mmレンズにした場合の富士山頂付近もシミュレーションしました、図4及び図5のとおりです。富士山山頂付近のの影を見たかったのです。

図4 カシミールによる富士山頂上 135mmレンズ相当

図5 カシミールによる富士山頂上 200mmレンズ相当

また、ステラナビゲータによる同時刻の月と太陽の位置は図6のとおりです。場所は忍野村を設定しています。また、その時刻の月齢17.7の姿を図7に示します。

図6 ステラナビゲータによる太陽と月の位置 2019/11/15 06:25

図7 ステラナビゲータによる月齢17.7 2019/11/15 06:25

前記リンク先の当該撮影写真とシミュレーション画像と比較すると、パール富士にならない以外は、富士山の山肌の影、月の姿は同じように見えます。

まとめると以下のとおりです。

・カシミール3Dによる画像と写真との比較結果では、合成ではないかとの指摘も撮影者のコメントもどちらにも対応しているように思います。合成または多重露光の写真と推察できます(それが良いかどうかはそれぞれの意見があります。撮影技術や合成処理(多重露光も含めて)としては普通に使用されている方法なので問題ないと考えられますが、方法を明記しておけば確実です)。写真は一回のシャッターでは撮れません、富士山の上に月が掛かることがないからです。

・月の色は別にして月の表面模様は図7のシミュレーション画像と多重露光写真は一致しているように見えます。

従って、同日同時刻に富士山に向かってシャッターを一度切った後、月の方向にカメラを回転して撮ればこのような写真ができるはずです。もちろん逆の手順も考えられます。また二枚の写真を独立に撮って、比較明で処理した合成写真でも可能なように思えます。

写真の合成処理は自身でも天体写真においてはかなりの頻度で利用しています。この手法があるおかげで特別な写真の表現ができるのも事実です。似たような例としてダイヤモンド富士の写真を合成したことがあります。例えばNo.532 (No.529は合成なしの写真)です。富士山にかかる太陽ではどうしても暗く写りますので、太陽が沈んだ後に逆に景色を浮かび上がらせた写真を撮影し、この両方の写真を比較明処理して富士山と太陽を浮き出させようとするものです。大切なのはこのような処理した方法を明記し、写真の撮影時刻、撮影場所を明確にしておくことです、そうすれば問題ないように思われます。もちろん、慣れてくるとそれを忘れてしまうことが多々ありますので注意が必要です。

プロフィール写真(アイコン風の宇宙服姿の自分とISS)は合成写真と言わなくても、合成とわかるので、何も説明していないだけです、そのような写真もあります。